映画「この世界の片隅に」を昨年見ていました。
そんな感じの記事を今更書きます。
今回はお話の解説記事ではないのでネタバレは少なめだと思います。
映画の作り(?)について書きました。
勢いのみの記事です。
高密度の情報
この映画は何といっても一画面の情報量がものすごい。
情報が処理しきれずに見終わった後めちゃくちゃ頭痛かった。
というわけで穏やかな映画のはずなんですがかなりカリカリ脳を回転させながら観てました。もうちょっと自然に直感的に見ればよかったと思うシーンもあったのでそこは後悔。
その情報なんですが、
電柱の千福の広告、アメリカ煮の中のラッキーストライクといった小さな情報から、
ずらずらーっと流れていく空襲の記録簿、一瞬うつった大和の輪形陣(見切れてたかもしれない)、シーンごとに使われている画材と色、とにかく見逃せない点が多すぎる。
本当に綿密に取材と時代考証を重ねたんだなぁと思う。何か一つ見逃すだけでも失礼ではないかと思ってしまうくらい密度が濃い。
青葉から入湯上陸した船員さんも千福を飲んでいたんだろうな。(千福は海軍、船員に親しまれていた酒。上官は賀茂鶴派だった模様。大和の船員は上から下まで賀茂鶴を飲んでいた。さすが大和)
戦艦、空母、駆逐艦といった目立つ船だけでなく、掃海艇、内火艇まで触れてくれていたことに感動した。
北條父の見舞いのシーンで掃海艇乗りが出てくるんだけど直前のシーンで湾に機雷を撒かれる描写がきちんとあるので、「あー掃海中に触雷してケガしたのか」とわかる。メインの人物の動向以外にも一切気が抜かれていない。本当にどれだけの考証を重ねたのか。すごいの一言。
画材も情報の一つである。
とあるショッキングなシーンは石墨でカカカカカッと描写されていて、すずさんが当初混乱していた事、事故の衝撃でそれこそ頭がぐやんぐやんになったことを端的に示している。
また航空機を迎撃するときに絵の具を空に塗りたくる想像が重なるシーンがある。実際に砲撃に色がつくように作られた砲弾があった模様(どの砲が撃ったか判別するため)。実際に現実の砲弾の色付き煙を見たわけではないけれど、絵の具とのシンクロが本当に美しかった。すずさんじゃなくても見とれる。
展開の早さ
「あれ?」と思ったシーンが比較的速やかに伏線回収されるので、映画全体をおおうゆるーい雰囲気とは反対に、話の展開はサクサク。
ゆるゆるとサクサクが相まって見ている側は時間の流れがよくわからなくなってくる不思議な映画。
基本的にすずさん視点で進む話なのですずさんが見ていない事はけっこうばっさばっさと進んだりする。とある空襲のシーンは防空壕内にすずさんがいるので爆音と暗がりがメイン。時間も短い。でも外に出て荒廃した周囲の風景を目にするだけでその激しさがきちんとわかる。
展開が早いけど描写(前述の高密度の情報)はきちんとされているので説明不足感は無かった。むしろ、すずさんの物語であるということが明確でよかったと思う。そう、これはすずさんの物語。主人公がきちんと描かれているので混乱しない。
歴史といいう最強のネタバレを踏まえて
第二次世界大戦で、呉で、という時点で避けては通れない呉軍港空襲。んでまた広島なんで原爆投下と玉音放送も絶対取り上げられる。
題材の時点で「あっ……(察し)」となった。歴史という最強のネタバレがある以上、展開が読めてしまうこともあるだろう。映画を見る前に一番気になったのはこの点だ。
視聴後、それは心配しすぎだと分かった。
この映画においては歴史ネタバレは問題にならなかった。それはやはり、事実である歴史の上に組み立てられた、物語が優れているからだと思う。最強のネタバレに打ち勝てる物語であった。歴史を知っているならネタバレ、ではなくより深く話にのめり込めるストーリーだった。
それでも冒頭の呉の港で晴美が教えてくれた船は終戦時には隼鷹しか浮いていないっていうのがはっきりしているのでもう「ああああああ」ってなった……。
青葉船員の哲だって、青葉大破着底の事実によりただでは済まないことはわかっている。こちらも気が気でなかった。
哲のセリフに「死に遅れたらつらい」というのがあったがこれはソロモン海戦という激戦を生き抜き、マニラ沖で大破して鈍足のまま水雷7本を神回避して帰ってきた青葉のことを知っていると余計重く聞こえる。
コトリンゴの歌
コトリンゴにハズレなし!以上!
これで終わると殴られそうなのできちんと書きます。
冒頭のテーマソングが流れ、「あり?聞いたことあるぞ」と思ったら
「悲しくて悲しくて、とてもやりきれない」
もうこれでノックアウトですよ。
頭の中は、フォーククルセイダーズかー!カバー曲で来たかー!そうきたかー!ああー!とだけ。
ここでこの曲を持ってくるとは!本当に掴みはオッケーなのだ。
このテーマソングで見てる側は「やっぱり悲しい話なのかな。戦争ものだし」と、まず思う。見ているうちに「あれ?なんか思ってたほど悲壮感がないな」と思う。そして数々のシーンを見た後、すべてが終わった後にもう一度オープニングを聞くと、決して悲しいだけの物語ではないが、「悲しくてやりきれない」物語であるということがはっきりする。
本当にやられた。
長くなったので今回はこの辺で。
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